東京地方裁判所 平成11年(ワ)28717号 判決
原告 社団法人東京都信用組合協会
右代表者理事 雨宮良晴
右訴訟代理人弁護士 松井勝
被告 横川俊夫
被告 川上優子
右両名訴訟代理人弁護士 井上寛
同 北野香織
主文
一 被告横川俊夫は、原告に対し、金六四〇〇万円及びこれに対する平成四年一二月八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告に対し、各自金五六〇〇万円及びこれに対する平成五年六月二九日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
三 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その八を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
五 この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告横川俊夫は、原告に対し、金八〇〇〇万円及びこれに対する平成四年一二月八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告に対し、各自金七〇〇〇万円及びこれに対する平成五年六月二九日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告横川俊夫(以下「被告俊夫」という。)は、同人の妻である横川富美枝(以下「富美枝」という。)の承諾を得ていないのにその承諾を得ている旨嘘を言って、株式会社ダイヤのコスモ信用組合に対する債務を担保するために富美枝所有の不動産に、極度額一億六三〇〇万円とする平成四年一二月八日付の根抵当権を設定する旨の契約を締結して、コスモ信用組合をその旨誤信させ同日、コスモ信用組合をして株式会社ダイヤに対し一億三〇〇〇万円を貸し付けさせた(以下「第一不法行為」という。)。また、被告俊夫は、平成五年六月二九日、コスモ信用組合をして被告川上優子(以下「被告川上」という。)とともに被告川上が富美枝であると嘘を言ってその旨誤信させて、被告川上は、富美枝になりすまして富美枝所有の不動産の根抵当権変更契約書(極度額増額)に署名、捺印したため、コスモ信用組合をして株式会社ダイヤに対し七〇〇〇万円を貸し付けさせた(以下「第二不法行為」という。)が、株式会社ダイヤはその後倒産し、和議手続に入ったが、その履行がなされていないから、コスモ信用組合は被告らの前記不法行為によりそれぞれ株式会社ダイヤに対する貸付金額と同額の損害を被ったが、原告はその損害賠償債権を譲り受けたとして同額の譲受債権(なお、第一不法行為については残元本九八五五万〇一二一円の内金八〇〇〇万円の限度で)の請求をしたものである。
一 争いのない事実
1 コスモ信用組合は、平成四年一二月八日、株式会社ダイヤを債務者として手形貸付、証書貸付等の取引のため、信用組合取引契約を締結した。
2 被告俊夫は、コスモ信用組合に対し、第一不法行為をなした。
3 第二不法行為のうち、被告俊夫が平成五年六月二九日、コスモ信用組合に対し被告川上を富美枝であるかのように紹介させコスモ信用組合をしてその旨誤信させて、被告川上に富美枝所有の不動産の根抵当権変更契約書(極度額増額)に署名、捺印させた。
4 株式会社ダイヤは、業務不信により、平成六年九月三〇日、東京地方裁判所に対し、和議申請を行い、事実上倒産した。
5 原告は、コスモ信用組合から、株式会社ダイヤが、被告らに有する第一不法行為、第二不法行為による各損害賠償債権の譲渡を平成一一年一一月二五日付で受け、その旨の譲渡通知は、同月二六日付で被告俊夫に送達された。
二 争点
1 被告川上の不法行為の成否
(原告の主張)
第二不法行為において、被告川上は、被告俊夫と共同して富美枝になりすまして富美枝所有の不動産の根抵当権変更契約書(極度額増額)に署名、捺印したため、コスモ信用組合をして株式会社ダイヤに対し七〇〇〇万円を貸し付けさせたものであるから、コスモ信用組合に対し、不法行為が成立する。
(被告らの主張)
第二不法行為において、被告川上は、当時被告俊夫の税理士事務所の従業員であり、被告俊夫からの富美枝の代わりとなってくれるようにとの指示を拒否できず、被告俊夫の指示のまま行動しただけであり、被告川上の署名捺印によりあらたな融資が実行される旨の認識はなかったので過失はない。
2 過失相殺
(原告の主張)
第一不法行為及び第二不法行為において、コスモ信用組合は、できる限り本人確認等を行っているものであるから、過失相殺されるような事情はない。
(被告らの主張)
第一不法行為において、コスモ信用組合は、富美枝に対し、富美枝所有の不動産に対する根抵当権設定にあたり結局本人意思の確認をしなかったものであるから、そのような事情を考えると、コスモ信用組合の過失割合は五割以上である。
第二不法行為において、根抵当権変更契約(極度額増額)については、被告俊夫の希望によるものではないから、コスモ信用組合の過失割合は二割が相当である。
第三争点に対する判断
一 争点1(被告川上の不法行為の成否)について
1 前記第二、一の争いのない事実、証拠(甲第1、乙第2ないし6)によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告俊夫は、税理士をしており、富美枝の夫であるが、被告川上は、昭和六三年から被告俊夫の経営する税理士事務所に事務員として勤務している。
(二) 平成四年ころ、被告俊夫は、同人及び富美枝の相続税の支払のために、相続財産である不動産の売却を株式会社ダイヤに依頼したことから、被告俊夫と株式会社ダイヤとの付き合いが始まった。そのころ、被告俊夫は資金繰りに困った株式会社ダイヤから不動産を担保として提供するように依頼された。
(三) 被告俊夫は、第一不法行為をした。
(四) 被告川上は、平成五年四月一日ころ、被告俊夫の事務所において、被告俊夫から依頼され、不動産担保提供承諾書の所有者欄及び委任状に富美枝の住所氏名を記載し、富美枝の実印を押印した。その際、被告俊夫は、コスモ信用組合の担当者に対し、被告川上を富美枝である旨紹介した。
(五) 被告川上は、平成五年六月二九日、被告俊夫の事務所において、被告俊夫から依頼され、コスモ信用組合の担当者の面前において、富美枝所有の不動産についての根抵当権の極度額を増額する旨の内容の根抵当権変更契約書に、根抵当権設定者欄に富美枝の住所氏名を記載し、富美枝の実印を押印した。被告俊夫は、富美枝の承諾を得ていなかった。
2 右認定の事実によれば、第二不法行為において、被告川上は、富美枝になりすまして、コスモ信用組合の担当者の面前において、富美枝所有の不動産についての根抵当権の極度額を増額する旨の内容の根抵当権変更契約書の根抵当権設定者欄に富美枝の住所氏名を記載し、富美枝の実印を押印したものであり、被告川上は、富美枝になりすましたのは、平成五年四月一日に続いて二度目であることからすれば、被告川上がコスモ信用組合に対し、不法行為責任を負うと解するのが相当である。この点の被告の主張は理由がない。
二 争点2(過失相殺)について
1 前掲証拠によれば次の事実を認めることができる。
(一) 被告俊夫は、第一不法行為をなしたが、その際、富美枝の委任状を提示されていない。
(二) 被告俊夫は、第一不法行為において、予め富美枝は病気で立ち会えない旨コスモ信用組合の担当者に告げたうえで、平成四年一二月七日、富美枝の自宅から徒歩五分程度の距離にある被告俊夫の税理士事務所において、富美枝所有の不動産について根抵当権設定契約書等の根抵当権設定者兼連帯保証人欄等に富美枝の住所氏名を記載し、富美枝の実印を押印して、右書類を原告担当者に交付し、さらに、原告の担当者が、その際富美枝に架電して、担保提供意思を確認しようとしたが、被告俊夫は富美枝は病弱で電話に出られないとして止められた。富美枝は、当時入院はしていなかった。
(三) 被告俊夫は、当時富美枝とは同居の夫婦であり、富美枝の実印等を持ち出すことは容易であった。
(四) コスモ信用組合は、富美枝の担保提供の意思を確認する内容の書面を同人宅へ郵送し、翌日配達されたが、右書面は被告俊夫が受領し、富美枝は右書面が郵送されたことは、当時知らなかった。
(五) コスモ信用組合の担当者は、被告俊夫から富美枝に担保提供の意思の確認を架電しようとしたが、被告俊夫から前記のような事情で止められたが被告俊夫の事務所から徒歩で五分程度の近い距離にある富美枝宅を訪問したり、その前後に富美枝に架電したりすることはなかった。
(六) 第二不法行為において、被告川上は、被告俊夫に依頼され、富美枝になりすましたが、それは、平成五年四月一日に続いて二度目である。
(七) コスモ信用組合の担当者は、富美枝になりすました被告川上に対し、特段話しかけたりしてはいない。
2 前記認定の被告ら及びコスモ信用組合の諸事情を総合すると、その過失割合は、第一不法行為及び第二不法行為いずれの場合も、コスモ信用組合二割、被告らは各八割と認めるのが相当である。
三 以上の次第で、本件請求のうち、第一不法行為については、被告俊夫に対し、六四〇〇万円及びこれに対する不法行為の日である平成四年一二月八日から及び第二不法行為については、被告らに対し、各自五六〇〇万円及びこれに対する不法行為の日である平成五年六月二九日から各支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 浦木厚利)